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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1664号 判決

控訴人 ウォルター・エフ・フランリー

被控訴人 東京国税局長

訴訟代理人 加藤宏 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人が昭和三十一年六月十二旧附でした控訴人の昭和二十九年度所得税に関する審査請求を棄却する旨の決定はこれを取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、控訴代理人において、

一、控訴人は、米国に本店を有する訴外インターナシヨナル、スタンダード、エリクトリック、コーポレーションと、住友電気工業株式会社及び日本電気株式会社との抗術援助契約に基き、右コーポレーション本社から右会社等に派遣され、これらの会社で技術指導を行つていたもので、右コーポレーションは日本国内には支店、事務所等を有しなかつたものである。又控訴人の給与は、右コーポレーション本社から控訴人個人宛に直接送られていたものである。

二、当時施行の旧租税特別措置法(昭和二十一年法律第十五号)第五条の二第一項、第五条第一項の給与所得税の減税措置は右法条所定の減税の要件が充足される限り納税義務者において当然にその減税を受ける権利を有し、その範囲内において納税義務を負担しないものというべきであるから、納税義務者が右法条の適用を受ける場合であるかどうかは税務署で職権調査すべき事項であり、同法第五条の二第二項、第五条第二項の申告書を提出することは右の職権発動を促すための便宜制度に過ぎないものというべきである。従つて右減税措置は、右申告書提出の有無によつて左右されるべきものではない。

三、仮にそうでないとしても、右申告書提出に関する同法第五条の二第二項、第五条第二項及び同法施行規則の定める規定は、本件のように給与支払者が外国にある場合については十分考慮されなかつた不備な規定で、控訴人従前主張のとおり憲法第三十条第八十四条に違反する無効な規定というべきである。

四、被控訴人のした本件審査決定の通知書に附記された理由中には、前記申告書不提出の点については何等の記載もない。右審査決定の理由として附記されなかつた事項は、訴訟において新にこれを決定の理由として主張することができないものと解する。又右審査決定の通知書に附記された他の点の理由なるものは、単に審査の結果であつてその理由とは認められない。従つて右審査決定は所得税法第四十九条第六項に違反し理由附記を欠く不適法なものというべきである。又仮に右審査決定の理由附記を後に補充することができるとしても右補充は速かになされない限り効力がないものというべきである。

旨を述べ、被控訴代理人において、本件審査決定の理由附記には不備又は違法の点はなく、仮に右理由附記に申告書不提出の点について記載のないことが不備であるとしても、被控訴人はその後昭和三十五年五月二十四日の控訴人宛通知言(乙第一号証の一、二)をもつて更にこの点の理由を補充した旨述べ、証拠として、控訴代理人において、甲第三号証を提出し、乙第一号証の一、二の成立を認める旨述べ、被控訴代理人において、乙第一号証の一、二を提出し、甲第三号証の成立を認める旨述べたほか、原判決摘示の事実及び証拠関係と同じであるからこれを引用する。

理由

当裁判所の判断は、次の点を附加するほか、原判決の理由に説明するところと同じであるからこれを引用する。

訴外インターナショナル、スタンダード、エレクトリック、コーポレーションが米国デラウエア州法に準拠して設立されたコーポレーションで、同国に本店を有し、電気通信材、電子的及び電気的製品の製造及び販売等を業とするものであるが、住友電気工業株式会社及び日本電気株式会社との間に技術援助契約を結び、技術資材の提供及び技術指導の業務を行つていたことは当事者間に争がなく、右コーポレーションは日本国内には支店、事務所等を有しなかつたものであること、右コーポレーションは日本国内で電気通信材等の製造をしていないこと、控訴人は右コーポレーション及び会社等間の技術援助契約に基き右コーポレーション本社から右会社等に派遣され、これらの会社で技術指導を行つていたものであることは、いずれも控訴人の自認するところである。

一、控訴人は、右コーポレーションは当時施行の旧租税特別措置法(昭和二十一年法律第十五号)第五条の二第一項の法人にあたるものである旨主張する。しかし右法条所定の法人であるためには、その法人が同法第五条の二第四項、第五条第三項により大蔵大臣が定めた規定、即ち昭和二十六年十月十九日大蔵省告示第一五〇一号に規定する種類の事業を営むものであることを要するところ、右コーポレーションが右告示の規定する種類の事業を営む法人であることは、前記当事者間に争のない事実及び控訴人の自認する事実によつてもこれを肯認するに足りるものではなく、他にこれを認めるに足りる証拠資料はない。又控訴人は、右コーポレーションは同法第五条第四項第二号の外資法人にあたるものである旨主張する。しかし右コーポレーションの保有する住友電気工業株式会社及び日本電気株式会社の株式が昭和二十九年一月一日現在で一億円を超えるものであることは当事者間に争のないところであるが、それが右法条所定の種類の資産にあたるものであることを認めるに足りる証拠資料はない。従つて右コーポレーションが同法第五条の二第一項又は第五条第四項第二号の法人とは認められないから、控訴人の本件給与所得について同法第五条の二第一項又は第五条第一項の減税に関する規定の適用を受ける余地がないものといわなければならない。

二、次に控訴人が本件につき同法第五条の二第二項又は第五条第二項所定の申告書を提出していないことは当事者間に争がなく、右申告書の提出がない限り同法第五条の二第一項又は第五条第一項の減税措置を受け得ないものであることは原判決の説明するとおりであつて、右申告書提出に関する同法条及び同法施行規則の規定が控訴人主張のように憲法第三十条第八十四条に違反する無効なものとは認められない。

三、所得税法第四十九条第六項によると、審査決定の通知は理由を附記した書面によつてなされなければならない旨定められているが、このように審査決定の通知書に理由を附記すべきものとしたのは、審査決定の公正を確保するためにほかならず、その理由附記は決定の結論を導くにいたつた具体的根拠を示せば足りるものというべきである。従つて右理由附記は、決定の結論を導くにいたつた経過を逐一詳細に掲げることを要するものではなく、又数個の理由がある場合にこれをことごとく掲げることを要するものではないといわなければならない。従つて又一の理由が附記されてあるに過ぎない場合でも、新にその理由をも訴訟において主張することを妨げないものというべきである。本件についてみるに、成立に争のない甲第三号証によると、本件審査決定の通知書には審査請求を棄却する旨の決定をした理由として、前記インターナシヨナル、スタンダード、エレクトリック、コーポレーションは租税特別措置法第五条又は第五条の二に該当せず、従つてこれより支払を受ける給与については半額控除の適用を受け得ない旨記載されていることが明かであるから、前記所得税法の規定の趣旨に照しその理由附記として十分というべきであり、これをもつて控訴人主張のように理由附記として不適法なものであり又は右に記載以外の前記申告書不提出の点についてこれを本訴において主張し得ないものということはできない。以上いずれの点からするも、控訴人が前記コーポレーションから支払を受けた本件給与所得につき旧租税特別措置法第五条の二第一項又は第五条第一項の適用がないものとし、被控訴人の本件審査決定に控訴人主張のような違法がなく、控訴人の本訴請求を理由なしとした原判決は相当で、本件控訴はその理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 薄根正男 村水達夫 元岡道雄)

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